クラシックのピアノ演奏を観ていると、どうしてみんな、あんなに長くて複雑な曲を楽譜なしで弾けるんだろう?と思ったことはありませんか?
しかもそれが「当たり前」とされているのが、クラシックの世界。
ポップスやジャズ、吹奏楽などでは譜面を見ながら演奏するのが普通なのに、なぜクラシックのピアニストだけが暗譜するのか?
そもそも、暗譜って本当に必要なの?
そんな素朴な疑問から今回は、「クラシックピアニストが暗譜する理由」をテーマに、歴史的背景や現代の演奏事情、そしてその功罪までを掘り下げてみたいと思います!
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アガサ
このブログの運営者及び管理人
3歳からピアノを始め、クラシック音楽歴は30年以上。結婚・出産を経て育児の合間にピアノを再開し、念願のグランドピアノも迎えました。
現在はピアノ教室向けのグラフィックデザイナーとして、全国の先生方をサポートしています。
ピアノとクラシックをこよなく愛する主婦が、音楽やピアノにまつわる情報を気ままに発信中です♪
- クラシックピアノの演奏に興味があり、なぜ多くのピアニストが暗譜で弾くのか知りたい方
- 演奏技術だけでなく、クラシック音楽の歴史や文化にも関心がある方
- 暗譜のメリットやデメリットを理解したいピアノ学習者や音楽ファン
歴史から見る「暗譜」の始まり

今でこそ当たり前のように思われているクラシック音楽における暗譜演奏ですが、実はその始まりはそう古いものではありません。
その風潮が本格的に根付いたのは、19世紀の超絶技巧を持つ演奏家、フランツ・リストの登場からでした。

リストは、演奏会で初めて“意図的に”楽譜を見ずに演奏した人物として知られています。
当時の聴衆にとってはこれが非常に衝撃的で、「なんと記憶だけであれほどの演奏ができるとは!」と大きな話題になりました。
それまでのコンサートでは、楽譜を見ながら演奏するのが一般的だったため、リストのスタイルは一種の“革命”だったのです。
この演奏スタイルが与えたインパクトは大きく、「譜面を見ない=完全に曲を自分のものにしている証拠」「暗譜してこそ、演奏に魂が宿る」というような美学が次第に広がっていきました。
特にロマン派の時代には、演奏者の個性や感情表現が重視されたため、暗譜演奏が“芸術家としての真価”を示す方法として受け入れられていったのです。
リストの親友であるショパンもまた暗譜演奏を行っていたほか、クララ・シューマンやヨーゼフ・ヨアヒムなど、当時の著名な演奏家たちもこのスタイルを採用し、暗譜は“プロの証”として定着していきました。

恐ろしい文化!(笑)



本当にそうだよ;;
こうしてクラシック界では「暗譜で弾くのが基本」という文化が形成され、今もなお続いているんだね・・・。
なぜ暗譜するのか?


では、現代のピアニストたちはなぜ今もなお暗譜にこだわるのでしょうか?
単に「昔からそうだから」という理由だけではありません。
実は、暗譜することで得られる演奏上のメリットがたくさんあるのです!
表現に集中できるから
暗譜によって譜面から目を離すと、視線を鍵盤や客席に向けられるようになり、身体全体を使った自由な表現が可能になります。
視線や姿勢に縛られず、音楽の流れや感情に没入しやすくなるため、より豊かで自然な演奏ができるのです。
練習の質が高まるから
「暗譜するために覚える」プロセスは、ただ繰り返すのではなく、構造や和声、フレーズの流れなどを深く理解することにつながります。
この分析的な練習によって、演奏者は作品の本質により近づくことができるのです。
伝統と期待に応えるため
クラシック音楽の世界では、暗譜演奏はもはや「前提」とされています。
リサイタルやコンクールで譜面を見ながら弾くと、「準備不足なのでは?」という印象を与えることも。
プロとしての信頼を得るためにも、暗譜は重要な要素となっているのです。
技術力の証明として
難しい曲をミスなく暗譜で弾けることは、演奏者の記憶力・集中力・テクニックの総合力を証明する手段でもあります。
つまり、聴衆や審査員に「この人は本当にすごい」と思わせるための、ひとつのアピールポイントにもなっているのです。



こんな感じで、現代のピアニストにとって暗譜は、芸術的な表現・技術的な完成度・演奏者としての信頼感を高めるための重要なツールなんだって。



ただ上手に弾けばいいってわけにはいかないんだもんなー・・・。何十分もの大曲を、何曲もプロは覚えているんだから本当にすごいよ!
暗譜のプレッシャーと課題


暗譜には多くのメリットがありますが、それと同時に大きなプレッシャーや課題も伴います。
特にステージでの「暗譜落ち(=途中で記憶が飛んでしまうこと)」は、演奏者にとって恐怖の瞬間です。
暗譜ミスのリスク
どんなに練習していても、ふとした拍子に記憶が飛んでしまうことがあります。
会場の空気、観客の視線、緊張による心拍の上昇……これらが重なると、普段通りの記憶がうまく呼び出せなくなることも。
特に長大な曲では、一箇所のミスがその後の流れ全体を崩してしまうリスクがあります。
精神的負担の大きさ
「絶対にミスできない」という緊張感は、演奏前から大きなストレスになります。
完璧を求めるクラシックの風潮の中で、「ミス=失敗」と見なされることも少なくありません。
この精神的なプレッシャーが原因で、本番を楽しめない演奏者も多いのです。
音楽より「記憶」が中心になってしまう
暗譜の準備に力を注ぐあまり、「どう覚えるか」に偏ってしまい、音楽そのものの解釈や自由な表現がおろそかになることもあります。
本来は心で感じるはずの音楽が、「間違えないように」という意識に変わってしまうのは本末転倒ですよね。
代替手段が受け入れられにくい風潮
近年はタブレット譜面や譜めくりペダルといったテクノロジーも登場し、譜面を見ながらでもスマートに演奏できる環境が整ってきました。
しかしクラシック界ではまだまだ「暗譜=プロの証」という見方が根強く、譜面使用が「手抜き」と受け取られてしまうケースも。



暗譜は演奏の質を高める一方で、演奏者に重い負担を強いる存在でもあるんだね・・・。やっぱり恐ろしい!



演奏者一人ひとりの判断と工夫にかかっているから、本当に大変だよね。
暗譜が全てではない時代へ


クラシック音楽において長年当然とされてきた「暗譜」ですが、現代では少しずつその絶対性が揺らいできています。
暗譜ができるかどうかよりも、「いかに良い音楽を届けられるか」という本質に、改めて目を向けようという動きが広がっているのです。
世界的ピアニストも譜面を使う時代
近年では、一流ピアニストでも譜面を見ながら演奏する場面が見られるようになりました。
特に室内楽や現代曲の演奏では、譜面を使用することが当たり前になりつつあります。
暗譜が必須という風潮が徐々に緩和され、「どう演奏するか」が重視されるようになってきたのです。
テクノロジーの進化と演奏環境の変化
iPadなどのタブレット端末に楽譜を入れ、足元のペダルで譜めくりするスタイルも定着してきました。
これにより、譜めくりの煩わしさが軽減され、視覚的な邪魔を感じにくくなったという演奏者の声も。
テクノロジーの進化が、「譜面を見ながら演奏する」ことへの心理的ハードルを下げつつあります。
聴衆の価値観も変わりつつある
聴き手の中にも、「暗譜でなくてもいいから、感動できる演奏が聴きたい」と考える人は少なくありません。
演奏スタイルの多様化が進む現代では、どの方法が正解かではなく、「その演奏が何を伝えてくれるのか」が問われているのかもしれません。



最近だとピアニストYouTuberも、結構タブレットで楽譜を見ながら演奏している人も多いもんね!



そうそう!
やっぱりコンクールなどではピアノソロの審査は暗譜が必須ではあることがほとんどだけど、少しずつ時代も変わってきているのかもしれないね♪
まとめ


クラシック音楽の世界で、長らく当然のように行われてきた暗譜。
その背景には、リストに始まる歴史的な流れや、芸術性・技術力の証としての意味合いがありました。
現代のピアニストたちは、より深い表現を追求するために、今なお暗譜に力を注いでいます。
覚える過程で楽譜を何度も分析し、作品を「自分のものにしていく」経験は、演奏者にとってかけがえのない財産になるからです。
とはいえ、暗譜が絶対のルールという時代ではなくなりつつあります。
技術の進歩や価値観の変化とともに、「自分らしい演奏スタイル」を選べる時代になったのかもしれません。
要するに、暗譜は「目的」ではなく「手段」。
大事なのは、どんな方法であっても音楽そのものを深く感じ、心を込めて届けること。
それが、演奏する喜びや、聴く人の感動につながっていくのではないでしょうか♪